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ドーキーは両手を胸元近くで広げ、大袈裟に驚くポーズ。
「驚いた。きみ、ぼくのファンなのかい?」
言葉と格好だけ。表情すら胡散臭く、声音は彼に話しかけられた時に返したものとなんら変わりはない。
それはさながら、人間をいたずらに真似ている人形。双子の門番オーキー・ドーキーは学園長の作り出した魔訶人形であるという噂を、彼はドーキーを見上げて何気なく思い出していた。
「全部お前が俺に教えたことだ」
そう言って押し付けた学生証を、ドーキーが恭しく受け取り目の高さに掲げる。
学生証には生徒番号と名前、それから小さな顔写真。
「ディー……ディーテリヒ・クラウス・ヒルシュフェルト」
ドーキーが読み上げた途端、今度はその手から学生証を奪い取り、彼……ディーテリヒは門の奥に足を向けた。
と、最後にきょとんとした顔の門番に振り返って。
「ドーキー、趣味は?」
「世界のパズル集めかな」
「そうか」
なんとなく聞かれたから答えてしまったような門番に、ディーテリヒは今度こそ背を向けた。
五分も経たないほどの短いやりとり。背中を見送る暇すらなく、ドーキーは再び生徒達の列の消化に追われ始める。
また一段落ついた頃には。
自分のことをやたらよく知る生徒のことを、彼はすっかり忘れてしまうのだ。
いつものように。
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