81人が本棚に入れています
本棚に追加
/431ページ
コツッ、コツッ、コツッ、
革靴の低い音が、電灯の僅かに灯る暗い廊下に響く。今宵の廊下はとても静かだ。
静かな理由、それは一重にこの空気の重さからなるに違いない。
ここ病院の廊下。そしてそこが静かな理由となればただ一つ、誰かの命が失われた時でしかない。
やがて音は扉の前でピタリと止んだ。
この先にいるのは恐らく深い悲しみにくれる遺族であろう。すすり泣くような悲壮に満ちた声が扉越しにも伝わる。--相当に悲しいのだろう。
だが、扉の前の靴の主人はためらいなく扉を開いた
ギィィ
靴の主人はなるべく静かに扉を開ききる。さすがに死者がいる中で騒ぐほど人が出来ていない訳ではない。
だが靴の主人に涙は無かった。何故だろう?
そして遺族に近づく彼に気づいた一人がいぶかしげに問いかける。
「あんた……誰だ?」
と。
「私?私か?……そうだな、人呼んでネクロマンサー、とでも呼んでもらおうか」
最初のコメントを投稿しよう!