第ニ章†失者は賢力を欲するもの†

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第ニ章†失者は賢力を欲するもの†

その後の授業というとカノンの新たな顔を知ってしまったためか、とても物静かな授業時間が送られて行った。 カノンは父や母に対する態度はいっちょ前のクセに、 いざ他人と向き合うとなると無言になるという何とも微妙な性格なのである。 そういう所をみると、やはりこういう状況に置かれると耐えられないのであった。 「……気分が悪いので…。帰りたいのですが…」 遂に帰りたい時に使う禁句を言ってしまった。 カノンの言葉に、先生は疑う事もなく帰る事を許した。 いや、疑っていたのかもしれない。 しかしカノンにとってそんな事はどうでもよかった。 とにかく、このドン暗いクラスから出られるのならば、どんな痛手も痛くはない。 カノンはサッサと支度を整えると学校を出た。 「どうも、今日は。」 カノンは唖然とした。 この真昼間、授業中に校門で自分に話し掛けて来る人が居たとは。 「今日は…。」 カノンは小さく挨拶すると、校門を出る。 一度商店街に入った時に校門を振り向いたが、あの変わった人はまだカノンの事を見ていた。 カノンは背筋が凍るのを感じ、急いで家へ向かった。 「ただいまー」 なるべく元気のなさそうに言う。 一応早退という事になっているので、 そこらへんは気にしなければいけないのだ。 「お帰りなさい。熱は大丈夫?」 カノンの呼び掛けよりも早い位 母は出てくるのが早かった。 母の手には温度計が握られている。 母はそれを差し出してカノンに手渡した。 カノンは受け取った温度計を脇に抱え、 リビングへ進む。 ソファーに座ると母がいつの間に煎れたのか、紅茶を出してくれた。
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