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「じゃ、行ってきます」
カノンは制服を羽織って言った。
黒い学ランの一般的な制服だ。
カノンは有名な服屋の社長の父親を持つお坊ちゃまだというのに、
お坊ちゃま学校に通おうとはしない。
もちろん父も母もしつこく勧めてきたが、
決意の固いカノンには無駄な事であった。
「あら、もうそんな時間なの?
行ってらっしゃい」
母は明るく微笑んで言う。
カノンはそれに手を振って応えた。
ドアを開け、出ようとした時だった。
「気をつけてな。」
父の声。
カノンは背中越しに聞いた父の声にクスッ、と少々堪え加減に笑った。
本当に父さんは静かだよなぁ…
カノンは家を出て庭を通った。
池からは涼しげな水の音が聞こえている。
大きな庭を抜け、外に出ると大きい広場が広がった。
足元には手の平程の様々な形をした赤・茶のタイルが敷かれている。
右を向いた。目の前に広がる商店街は朝の7時だというのに
ガヤガヤとにぎわっていた。
カノンは道を進みながら立ち並ぶ店を眺める。
約1キロその商店街を歩いた先に、
一般の普通過ぎる位の学校が建っている。
カノンは校門に立つと、
自分よりも遥かに大きい学校を眺めた。
「よぉ、服屋」
その そのまんま過ぎるニックネームに顔を歪ませ、振り返る。
カノンのすぐ後ろにヤツは居た。
「お~?何睨んでんだ。」
うざっ……
僕コイツ本当嫌い。
がき大将でいじめっ子。
最悪最低窮まりない野郎だ。
カノンはケッと言わずとも顔にモロ出しの状態で
玄関へ向かう。
こんなヤツ、名前も覚えてないし……
カノンは溜息混じりに自分の靴箱を開けた。
「オイ。お前シカトするんだ?
たいした度胸だよなァ。なぁ?!」
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