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「まだ寝ぼけてるの?」
少女はアーモンド型の大きな瞳をぱちくりさせた。ボリュームのあるドレスの裾をふわりとさせて膝をついた少女はグリードの顔をまじまじと見つめた。
「フランはお母様の名前よ。よく似てるって言われるけど、そんなに似てる? 小さい時に死んでしまったから自分ではわからないの」
「ああ、ああ。似てる……似てるからちょっと黙ってくれないか」
グリードは両手で顔を覆ってまた寝転がると体をごろりと横に傾けた。
「どうして?」
「いいから、少し考えさせてくれ。思考が回らん」
「そうね、時間はあるから大丈夫よ」
少女は立ち上がるとくるりと回って、グリードから少し離れた場所に座ってシロツメクサを摘みだした。
グリードは暗い視界の中で古い記憶を手繰っていた。昔、彼がまだ幼く、まだ幸せに満ちていた頃のことだ。王都に目の前の少女と同じ瞳の人がいた。美しく、それでいて強い意志を持った女性だった。
「うう……そりゃそうだ。似てるに決まってる」
唸りながらもまたごろりと体の向きを変え、指の隙間から少女を覗いた。少女は花のついた長い茎にシロツメクサを編み込ませ、花冠を作っているようだ。
「……そうか、あんたがリェダ姫か」
呻くように言うと少女は振り向いた。
「そうよ。あなたは?」
「グリード」
名乗った途端、シロツメクサを編むリェダの手が止まった。
「うそ! こんな酔っ払いが私の守護騎士なの?」
悲鳴のような叫び声にグリードは耳をふさいだ。ランバートが『ただのお姫様ではない』と言っていた意味をなんとなく理解したグリードは濡れている髪をばりばりと掻きながら言った。
「こっちのセリフだ。あんたの母親はもっと慎ましい感じの女性だったぞ」
グリードは身を起こし、リェダと向き合うように座った。
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