02:リェダ姫

4/8
前へ
/22ページ
次へ
「まだ寝ぼけてるの?」  少女はアーモンド型の大きな瞳をぱちくりさせた。ボリュームのあるドレスの裾をふわりとさせて膝をついた少女はグリードの顔をまじまじと見つめた。 「フランはお母様の名前よ。よく似てるって言われるけど、そんなに似てる? 小さい時に死んでしまったから自分ではわからないの」 「ああ、ああ。似てる……似てるからちょっと黙ってくれないか」  グリードは両手で顔を覆ってまた寝転がると体をごろりと横に傾けた。 「どうして?」 「いいから、少し考えさせてくれ。思考が回らん」 「そうね、時間はあるから大丈夫よ」  少女は立ち上がるとくるりと回って、グリードから少し離れた場所に座ってシロツメクサを摘みだした。  グリードは暗い視界の中で古い記憶を手繰っていた。昔、彼がまだ幼く、まだ幸せに満ちていた頃のことだ。王都に目の前の少女と同じ瞳の人がいた。美しく、それでいて強い意志を持った女性だった。 「うう……そりゃそうだ。似てるに決まってる」  唸りながらもまたごろりと体の向きを変え、指の隙間から少女を覗いた。少女は花のついた長い茎にシロツメクサを編み込ませ、花冠を作っているようだ。 「……そうか、あんたがリェダ姫か」  呻くように言うと少女は振り向いた。 「そうよ。あなたは?」 「グリード」  名乗った途端、シロツメクサを編むリェダの手が止まった。 「うそ! こんな酔っ払いが私の守護騎士なの?」  悲鳴のような叫び声にグリードは耳をふさいだ。ランバートが『ただのお姫様ではない』と言っていた意味をなんとなく理解したグリードは濡れている髪をばりばりと掻きながら言った。 「こっちのセリフだ。あんたの母親はもっと慎ましい感じの女性だったぞ」  グリードは身を起こし、リェダと向き合うように座った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加