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あなた、お母さんと会ったことあるの?」
「ガキの頃に何度か会ったことがある。まだあんたが生まれる前だよ。さっきも言ったが慎ましくて可憐な人だった」
「慎ましくも可憐でもなくて悪かったわね」
「はは、おれとしてはこれくらいの方が話しやすい」
「そうなの? それでご感想は?」
リェダはツンとして言った。
「こんな小汚い、裸の男を見てキャーキャー騒がないお姫様は初めて見た。死体とか言うし」
「本当に死んでいたら人を呼ぶわよ。ちゃんと確かめたし、一度は起こそうとしたのよ。でも起きないからあっちの木陰で様子を見ていたの」
「お姫様ってのは暇なのか? お供はどこだ?」
「退屈だったから抜け出してきたの。今ごろ館は大騒ぎね」
リェダはくすくすと笑って言った。何も言えずにグリードは間の抜けた顔を彼女に向けた。
「私も感想言っていい?」
彼女は手をついて、ずいっとグリードを見上げてくる。大きな瞳で見つめられて狼狽しない男はいないだろう。
「う、ん? さっき言ってたじゃないか。有り得ない! って」
グリードはなんとか取り繕おうと慌てて言った。彼女の大きな瞳から逃れるのは難しいことだった。なにしろリェダは抜群に可愛いのだ。
「そうよ。私に対してへりくだったり、おべっかな言葉遣いをしない人だなんて初めて」
リェダは腕を組んでジトっとグリードを睨んだ。
「おれはそれをどう受け取ればいいんだ?」
「最低よ。私が思い描いていた理想の人があなたみたいな人だなんて。私、あなたと王都に行かなきゃならないの?」
彼女が大げさにため息をついたのでグリードは少しむっとしながら言い返した。
「あんたがお父様に『あんな男、絶対に嫌』って言ってくれれば……」
「だめよ」
グリードが言い終わる前にリェダが遮った。有無を言わさぬ物言いにグリードは思わず口を噤んだ。
「ずっと反対されていたお父様にあなたと一緒なら王都に行っていい、って言われたんだから」
「嘘だろう」
自分でも情けなくなるような声だった。リサロには二度と戻るつもりはなかった。この国境近くの平和な町でのんびりと暮らすはずだったのに。
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