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ファウストは見るからに温厚そうな顔をした男だった。二人の言葉の応酬を微笑みを浮かべたまま聞いている。
「おれやファウスト様に対してもふてぶてしい態度を取れるお前にぴったりの仕事があるんだ」
ランバートは団長になる前からグリードを目の敵にしていた。偶然にもランバートンの妻を口説いたことが最大の原因ではあったが、出会った当初から二人はまるで馬が合わなかった。
「ファウスト様?」
グリードは初めて気づいたとばかりにわざとらしく声を挙げた。とは言っても彼がファウストの姿を見たのは入団した時以来ほとんどなく、それも列の後ろから髪の薄い頭が見えただけだった。痩せぎすでパンの乗った皿より重い物を持ったことがないのではないかという疑いさえ沸く華奢な体をしている。
彼はしげしげとファウストを見て言った。
「じゃあファウスト様直々の任務で?」
「そうだ。リェダ姫を知っているよな?」
ランバートはほとんど確かめるように尋ねた。さすがのグリードも知っていた。リェダ姫は彼の目の前にいるファウストの一人娘である。
「ご尊顔を拝したことはありませんが」
「毎朝礼拝に行けばいらっしゃる」
ピシャリと言われてグリードは肩をすくめた。礼拝堂にも一度しか行ったことがない。
「かわいらしい姫だ」
グリードは小さく舌打ちをした。
彼は姫君というのが大の苦手だった。日がな一日刺繍や読書に勤しむばかりで、会話といえば当たり障りのない天気の話ばかり。もしちょっとでも粗野な言動――例えば軽い下ネタ――でもとろうものならパタリと気絶してしまう。
それにこの領主の娘だ。花占いとか小鳥はお花に歌うんだとか、理解のできないことを言い出すような女の子に違いない。グリードは嫌な予感を受けつつも尋ねた。
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