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「リサロ出身の王城の中を熟知している騎士はいないかってファウスト様に聞かれたんで、あんたのことをお教えしただけだ。元伯爵のグリード・シャンティーが適任でしょうって」
「なんで本名知ってんだよ」
ランバートが顔を曇らせた。
「おれが入団してからの二年間、酔っ払ったあんたを介抱するのがおれの主な仕事だったからだよ!」
「そういえば同室だったなぁ」
「その時、昔シモン・メルディックに何をされたかも耳にタコができるくらい聞かされた。ファウスト様には言ってねぇが」
「それは覚えてねぇ。お前も忘れろ」
グリードは目を伏せ、深い溜め息をついた。
「そうかい」
ランバートは立ち上がった。長身のグリードに張るほどの体格がある。刈り上げた黒い髪を乱暴に掻くと彼もまた深い溜め息をついた。
「手紙、ちゃんと読めよ。姫はご自分で行くとご決断されたんだ。ファウスト様は止めたがね……だがどうしようもないことだとお二人で話し合われたそうだ。今回のことがお取り潰しの機会にされてはいけないと」
そう言ってランバートはグリードの肩を叩いて部屋を出て行った。
グリードは立ち尽くしたまま、渡された手紙を見つめた。封筒の裏にはシモン・メルディックと書かれている。この男はグリードから何もかもを奪った。
家族も友達も思い出も希望も全部。
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