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僕を見て、彼女が笑った。
お日様のような笑顔だった。
少なくとも僕にはそう思えた。
僕も笑い返そうとしたが、無理だった。顔が引き吊ってうまく笑えない。
かわりに僕はにゃあと鳴いた。
彼女がまた、笑った。
「可愛い子ね」
彼女は僕の頭に、その雪のように白い手を乗せた。
けれどその手は雪とはまるで違って、春の日の太陽のようだった。
僕はその温もりの心地よさに咽を鳴らす。
彼女は一頻り僕を撫でたあと、
「そろそろ行かなくちゃ」
と言って立ち上がった。
「またね」
彼女が言った。
僕はにゃおんと鳴いた。
彼女が笑った。
お日様のような笑顔だった。
少なくとも僕にはそう思えた。
笑い返そうとしたけれど、僕には無理だった。
彼女は行ってしまった。
僕は彼女の手を思い出しながら、今度また彼女に会えたときは、その時こそはちゃんと笑えたらいい、と思った。
― End. ―
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