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私は一人、ホテルに隣接する洋風の庭園のレンガ道を歩いていた。
ガーデンウェディングでもするのだろう開けた広場も暗闇に覆われ、今はわずかなオレンジ色の照明のライトアップだけだった。
とぼとぼとその中を歩く。
背中が開いた黒のロングドレスにショールを羽織っただけの肩が風にあたって寒かった。
当ても無く芝生の広場に足を踏み出すと、数歩、歩いたところで、芝にヒールがめり込み足をとられた。
体勢を立て直す暇も無く、そのまま芝生に倒れこむ。
借り物のドレスなのに…
泣きそうな気持ちに追い討ちをかけるアクシデントに立ち上がる気力も無く、そのまま座り込んだ。
『悪く思うなよ。女性の泉が提案するより、俺が提案する方が通りがいいだろ。だからだよ。』
同僚で恋人だった男にかけられた言葉が頭の中を駆け巡った。
頬を涙が流れていった。
人目につくところで泣くまいとこらえていた涙が溢れてきた。
好きだったのに…
自分の提案を盗まれたことより、盗むような人を好きだったという事実が尚更、心を締め付けた。
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