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泉を部屋へ案内すると俺はリビングに戻り、テーブルの上を片付ける。
泉のグラスをワゴンに片付けようと手を伸ばしながら、俺は笑っていた。
「リューか…」
懐かしい記憶が蘇る。
『アンドリューのリューは、にほんごで、ドラゴンだよ。』
『かっこいいでしょ、だからアンドリューの漢字は、これね。』
幼い頃、よくイギリスへ来ていた篠原家の子供たちが、皆の名前に漢字を当てはめてる遊びをしていて…
俺の名前には、ドラゴンを表す漢字を入れてご満悦だった。
篠原家の兄弟は皆、一文字の漢字が表す名前だそうで、俺もしばらく『リュー』と呼ばれていた。
ドラゴンを意味する言葉とは、なんてかっこいいのだろうと、幼少の俺は、はしゃいでいたものだ。
すっかり忘れていたのに、再び、そう呼ばれることがあるとは…
穏やかで優しい時間だった。
父と兄がいて…
昔を思い出すなんて、切ないだけだと思っていたが…
泉に呼び起こされた記憶は、乾いていた何かに水を染み込ませるように満たしていく…。
優しい記憶に微笑みながら、片付けていると、テーブルの下に追いやられていた湿布や氷嚢に気づいた。
「…面倒だな。」
そう言いながらも手はもうそれを運ぶべく、持ち上げていた。
俺が自分の得にもならないことを進んでやるとはな。
まあ、そんな気まぐれもいいさ。
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