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「…あまり物珍しそうに眺めるな。」
リューがすっと横に来て笑顔のまま私を咎めた。
「…仕方ないでしょ。珍しいものは珍しいんだから。」
「知ってるやつもいるか?」
ごく親しいものがする仕草のように、リューが頬を寄せて聞いてくる。
そのリューの香水の香りがはっきりわかるほどの近さに心臓が音を立てた。
ちょ…っと、いちいち近いのよアンタ!!
思わず、早くなってしまった鼓動を必死に抑える。
リューの顔は笑顔だが、口調は仕事モードなんだから。
一人で意識して慌てるなんて、みっともない。
「…そうね…ひだり奥から二番目のテーブルで、今、隣の人の肩を叩いた人。高級化粧品の通販で儲けてる会社の社長さんでしょ。で、その隣のテーブルにいるベージュのスーツの人は、ミセスの女性に受けてる宝石ブランドの社長さんだと思う、この前テレビで女性実業家って紹介されてた。その人と話してる髪の長いメガネしてる男性は、華道家。」
「カドウカ?」
「生け花をする人、フラワーアレンジメントね。全国各地で生け花の展示会してる。」
「ほう…。」
「他にも新聞なんかで顔を知ってる人がいっぱい。」
「なるほどね。じゃあ、ちょっと行ってくるか。お前も来い。」
こ、来いって…あの人たちの所に行くの!?
リューも今の説明聞くまで知らなかった人でしょ!?
動揺する私を置いてリューはスタスタと歩いていく。
「……お…おぉけー……。」
まあ、な、なるようになるさ…きっと。
私は半ば諦めの境地で、必死に笑顔を作りリューの後を追いかけた。
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