霧の重さ

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アイツと、東郷と12年振りに再会したのは春先の雨の夜だった。半年前にやっと手に入れた国産中古のオープンカーでドライブと洒落込むつもりが、天気が崩れガレージに戻って来た…ハズだった。いま思い出しても記憶は曖昧だ。あれは夢だったのだろうか…。しかし電球の切れた暗闇に人の気配があった。闇の重さだけはしっかりと心に刻みついている。 … 「オイ、誰だ!?」 右手にラチェットをそっと握り締める。幌を開けて走るときはパケットの脇に忍ばせている。オープンで走るととかく絡まれることが多い。何度か揉め、その学習の成果がこれだった。持って車を降り立ったことはあれど幸いにして一度も振り下ろすことはなく済んでいる。 カラカラ… オイルの缶が転がる。見えない相手がこちらを凝視する。厄介なことになったとつぶやく。もっとも世の中厄介ごとだらけだ。休日に家で寝ているだけでチャイムがなり新聞の勧誘をうける。厄介というのはその程度でしかないのだろう。ふとこんなことを思った。静かにドアを開けゆっくりと車を降りる。ラチェットが目立たぬように両腕はダラリと下げた。暗闇の音を探る。もしこちらへ飛び出してきたら、肩口に素敵なプレゼントを叩きつけつけてやろう。何故かそうしなくていけない気がした。また、思わなくてもきっとそうするハズだ。おそらくじぶんはそうした人種だった。借り物の服を常に着させられているような据わりの悪さ。いま普通に市民として平穏に暮らしているのはたまたま偶然が重なったからに過ぎないと思う。見えない何かに対するジレンマをすべて目の前にいるであろう侵入者に向かわせる。 不意に暗闇が立ち上がった。正確には闇が人になった。 闇からの殺気、じぶんがそう感じていたものはすっと消えていた。
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