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ラチェットを握り締めていた拳をそっと弛める。闇から発せられていた黒い殺気は最初から存在しなかったかのように消えていた。
「俺は運がいいのかな」
東郷がつぶやく。
「いきなりで悪いが時間がない。こいつを預かってくれないか?」
東郷が右手を差し出す。革張りのシステム手帳。薄暗いためよくわからないがそれは酷く汚れていた。
「汚いな。まぁ、こいつもそうだが、お前の方が煤けてるな…どうしたんだ?」
俺は東郷に笑いかけた。
東郷も笑った、いや、笑おうとしたのだろう。口元をやや上に引きかけ、足元からカクリと崩れ落ちた。
受け身をとる風もなく地面に転がる。頭が鈍い音と共にコンクリートにぶつかり床に血の川ができた。
目の前の事実に反応できず呆然とする。頭が地面にぶつかった鈍い音が妙に余韻を残して鳴り響いていた。
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