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「ハァ…ユキ~!待てって」
そう呼び止める声と私が立ち止まったのはほぼ同時だった。
「ハァハァ…ん…よし!いい子だ!しかし…世話が焼けるなぁ」
声の主はようやく追いつき、私の頭をよしよしと撫でていたが、しばらくするとその手がピタッと止まった。
「え?」
彼の目に2匹のリスザルの姿が飛び込んできたからだ。
「ユキ…君が見つけたの?」
私は
「この子達が助けて!って電波を出してたの。雨に濡れて相当弱ってるみたい…
ねぇお願い!この子達を助けてあげよ!家に連れて帰ろうよ」
と、彼に訴えかけた。
だけど実際は…
「ワン!ワンワン!」
という音が響いただけだった。
そう…
私、ユキは犬。
ウエストハイランドホワイトテリアという小型犬で、”彼”というのは私のご主人様。
名前は櫻井和寿という。
「かなり弱ってるみたいだな…可哀相に。仕方ない!連れて帰るか…」
”ありがとう!”
「ワンワン!」
私は和寿の脚に纏わり付いて感謝の気持ちを表した。
2匹のリスザルは弱ってはいたものの、温めてあげるとなんとか峠を越えたようだ。
和寿はその2匹に”モンちゃん”と”キーちゃん”という名前を付けた。
安易すぎだし…
私の名前も真っ白だからユキなんだよ!
でも和寿、最近元気になってよかったな…
初めて会った時は、沈んだ深い海の底みたいな目をしていたのに。
私は和寿との出会いを思い出していた。
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