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――香織Side――
その日初めて会った櫻井という男性に、今まで胸に溜め込んできた辛い経験を話し、しかも部屋に泊めてもらった私。
深い悲しみを連想させる彼の目に、私と同じ種類の匂いを感じてはいたが、正直、いい人を装っているだけで寝込みを襲われるんじゃないかと警戒していた。
でもその反面、それでもいいかと心のどこかで諦めに近い感情を抱いている自分がいた。
”簡単に人を信じちゃいけない!
信じれば裏切られる辛さを味わうものだ”
父の抑揚のない言葉が脳裏をかすめた。
しかし私のそんな危惧は必要なかったようだ。
彼は自室から一歩たり出ては来なかった。
安堵と少し落胆に似た感情が交錯しながら、私はいつの間にか深い眠りに落ちていった。
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