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ただ、兄の話になってから終わるまでの間、和樹が智美の様子を見ていたことを、本人は気づかなかったようだ。
食事も終わり、和樹達と別れた三人はそれぞれの部屋に戻り消灯時間を向かえ眠りについた。
二十三時五十九分。あと一分で日付が変わる。町は静寂に包まれ、人々は眠りについている。時計の秒針はゆっくりと進み、全ての針が十二の数字に重なろうとしている。
そして、その時はやってきた。
キーンコーンカーンコーン……。
「……っ?」何かの音が聞こえ、智美は目を開ける。「……チャイム?」
気のせいだろう、そう思いもう一度目を閉じたが、もう一度チャイムが聞こえてくる。今度ははっきりと聞こえ、智美は閉じていた目を開けると窓へと向かった。
部屋にある窓を見れば水島学園が見える。チャイムでも故障したのかな。こんな時間に普通チャイムなんて鳴るわけないし。
「…………えっ?」
カーテンを引いて視界に入ってくる光景に息を呑む。水島学園が無い。いや、あるにはあるが、何かモヤのようなものに包まれている。あれは何? 僕、まだ夢でも見ているのかな?
頬をつねってみる。痛い。ということは夢じゃないんだ。でも、わからないことだらけだ。あのモヤみたいなのは何?
状況を飲み込めない智美がしばらく学園を見つめていると、学園へ続く道を走っていく三つの影を見つける。影が街灯の下を走ったので、水島の制服を着た男子生徒が二人、女子生徒が一人だとわかった。でも、なぜこんな時間に?
学園へ続く道を走っていったということは、あの三人は学園へ向かっている。あのモヤに包まれた学園へ。なぜ? 何のために? それはここで考えていてもわかるわけもない。
「……行ってみよう」
急いで着替え、静かに寮を抜け出すと智美もまた学園を目指す。なぜ? どうして? 興味がわいたから? それもある。あんな不思議な光景を見て、何もしないのなんておかしい。
それに――
水島学園には、何か秘密があるんだ。普通じゃない何かが。
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