プロローグ

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  廊下の先は暗闇によって光を失われ何も見えない。けれどその場の空気は嫌という程重たく、周りの温度が一気に低くなったような気もする。その空気を作った主は一向に現れる気配は無い。いや、むしろ気配が無い? そんなバカなことがあってたまるか、僕らはこの空気をよく知っているんだ。  若干の苛立ちを大輔が覚えた時、空気が動く。二人の目の前に二つの影が現れた。それらはゆっくりと二人の方へと歩いていき、大輔達の視界に捉えられる位置までやってくるとようやくその姿が見えた。 「冥魔……!」  圭介が小さく叫んだ。冥魔、と呼ばれた二つの影は人ではなかった。いや、片方は人の形をしているが、ところどころ灰色の毛皮に覆われ、狼の目や鼻、牙といったものが顔に備わっている。二本足で立つその姿はあえていうのならば人狼、といったところだろうか。 もう一つの方は人の形をしていなかった。人の顔のようなパーツがついているが、隣に立つ人狼の頭から胸の部分くらいまでの大きさで球体を成している。けれど完璧な球体ではなく、人の腕や足などが身体から突き出していた。 「……大輔、油断しないように」 「はい!」  返事をしてから大輔は身をかがめ、人狼との間を一歩で埋めると右腕を振り下ろす。振り下ろしたその右腕はいつの間にか鋭い爪と黒い皮膚、人間のものとはまったく違うものへと変貌していた。そのスピードに人狼はついていけず、左肩から斜めに傷をつけられてその場に転がる。 すぐ横にいた球体冥魔が口を開けて大輔に飛びかかろうとしたが、それよりも早く圭介の蹴りがヒットし、後ろへと下がっていく。圭介の足も、青黒い皮膚と膝頭の部分に鋭いブレードが生え、人間のものとは違うものへと変貌していた。  倒れた冥魔達はその場で黒い灰となって消えていったが、それでも空気は変わらない。まだ何かいると踏んだ二人は廊下の奥へ向けて走り出す。 「っ!」  突然大輔が右へ飛ぶ。否、誰かの攻撃を受けたのだ。壁に勢いよくぶつかり、一瞬呼吸が出来なくなる。
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