第一章

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 違う! と叫びたかった。けれどいまホームルームをしていて、周りにはたくさんのクラスメイトがいる。この状態で叫ぶのは無理がある。智美は唇を噛みながら、担任の話に集中しようとする。  水島学園は学問、部活動において有名な高校であるが、ある部分で有名になった高校でもある。  それが、生徒の行方不明事件である。  事の発端は二年前。当時三年生だった男子生徒が行方知れずとなり、家族から捜索願を出された警察が動き出した。その後も最初の男子生徒を含めて三人の生徒が行方不明となり、メディアで報道されるレベルにまでなった。  それを境に水島学園は「行方不明の生徒を出した学園」というブランドがつき、面白半分でこの学園を志望する学生が増えてきた。智美の前にいる男子生徒達も似たような理由なのかもしれない。  ホームルームが終わり、今日の行事は全て終わった。帰り支度を始める智美の隣に、短く乱雑に切った髪に切れ長の目を持つ男子生徒が立つ。 「智美、一緒に帰らないか?」 「あっ、はい」  頷いてからプリントを鞄に全ていれ、男子生徒と共に下駄箱へと向かう途中、「よく我慢したな」と声をかけられる。 「何がですか?」 「ホームルーム中によくない話をしていた奴らがいただろ? 怒鳴りもせずによく我慢していたな」 「……さすがに、高校生にもなったんだから、ああいうのは止めようと、そう思っただけです。それに、翔さんに迷惑をかけてしまいます」 「止めるのは俺の仕事だったからな」言って翔が苦笑する。「特に迷惑とは思っていなかったよ」  智美は何も言えなくなる。翔とは幼稚園からの付き合いだ。高校まで一緒になるとは思っていなかったが、正直彼が一緒にいてくれて助かっていると思っている。そうでなければいつか酷い醜態をさらしてしまうかもしれなかっただろう。
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