第一章

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 ここは、僕の兄さんが通っていた高校で、行方不明になった場所でもある……。  二年前にこの学園で起こった行方不明事件の最初の被害者である古田圭介は、智美の実兄だ。突如として行方をくらました彼を探すために家族は警察に捜索願を出し、自分達でも圭介の行方を調べてまわった。けれど、彼の証拠は何一つ見つからなかった。  世間からは謂われの無い誹謗中傷、そのせいで母親は心を病んで入院し、父親は圭介を死んだものとして扱い仕事を続けている。家族がバラバラになり、中学校では兄のことでからかいのネタにされ、からかってきた男子生徒とケンカをしたことが何度もある。その度に翔さんが止めに入ってきてくれて、何度も迷惑をかけてしまっている。  どうして兄さんがいなくならなくてはいけなかったのか。それが知りたい。だから僕は、この学園を志望したんだ。兄さんがいなくなった学園ならば何かしらの答えがあるはずだ。 「智美、どうした?」  声をかけられ顔をあげると、下駄箱の前で立ち止まっていた。「だ、大丈夫です」心配そうな顔をしている翔に無理やり笑みを見せ、靴を履き替える。 「きょ、今日から寮生活じゃないですか。部屋割りとかどうなるのかなって」 「そういえば二人一部屋だったな、もう一人とうまくやっていけるといいな」 「……そうですね」  二人一部屋ということは、もう一人は知らない人だ。この学園で知っている一年生なんて翔さんくらいしかいない。中学の時のクラスメイト達はこの学園が遠い場所にあるからと敬遠していた。実際それがいいと思っていた。中学の時のクラスメイト達は僕のことを知っている。この学園で行方不明になった生徒の弟なんて知られたくなかったから。  正直それは嬉しかったけれど、同室になる人がそういう考えを持つ人だったらどうしよう。いっそのこと翔さんと同室になれば悩みは解決するけれど、何百人もいる生徒を割り当てるんだから無理に決まっている。なんで二人一部屋なんだろう。  学園から少し離れた場所にある寮は玄関が一つで、奥に共通の食堂があり、右側が男子寮、左側が女子寮となっている。入ってすぐ生徒達が掲示板の前に集まっている。ブレザーについているエンブレムが緑色なのを見ると一年生で、部屋割りが発表されているようだ。
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