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「ナンバーエイト、只今帰還致しました」
「ご苦労」
アシュタルテはおろしっぱなしの金髪を、さっと手で背に払った。
「わたしに直接報告があるらしいな。何事だ?」
ぞんざいな問いかけに、男は低い声で答える。
「“キツネ”の痕跡を見つけました」
「!」
反応したのはアシュタルテではなく、彼女の背後に立つ工藤の方だった。
アシュタルテはさして関心もなさそうに、「そうか」とだけ言う。
ナンバーエイトと呼ばれる男は僅かに眉根を寄せた。
「追わないのですか?」
「そんな必要があるのか?」
アシュタルテは、逆に問う。
「こちらの行動を予測しやすくするのは本意ではなかろう。それくらい考えて物を言え」
「アシュタルテ様。その痕跡から“彼”を探せないものでしょうか」
アシュタルテははっきりと嘲笑した。
「そして代わりに我々の痕跡を残すのか。浅慮だな」
吼え猛る風が、ガタガタと窓を揺らす。叩きつけられた雨滴{うてき}がガラスを伝う音がうるさい。
室内ではアシュタルテが静かに言う声が、不思議にクリアに響く。
「間違えるな。我々の目的は、あくまで彼の発見であって、その存在を大々的に知らしめることではない」
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