At stormy night

5/9
前へ
/189ページ
次へ
 ナンバーエイトは、はっとした表情になった。  アシュタルテが微かに口角を持ち上げて笑う。  「分かったら風呂にでも入って、今日はゆっくり休め。どうせこの嵐では、何も出来んからな」  「ははッ!」  敬礼をしたナンバーエイトが部屋を退くと、工藤が小さく吹き出した。  「何?」  アシュタルテが振り向く。  「いえ、失礼しました。人をのせるのがお上手ですね、貴女は」  「そう? ナンバーエイトは、やれば出来る男よ。檄を飛ばすのも、上に立つ者の義務でしょう」  「深いお言葉ですね。さすがはアシュタルテ、というところでしょうか?」  微笑をしながら、工藤は机上にノートパソコンを据えた。  「データの統計と、報告の抜粋です。ご確認下さい」  「ご苦労様」  全世界を震撼させるニュースが報じられて、1年が経った。誰も表には出さぬまでも、その脅威は日々、人々の心を侵食している。  10年前、“世界のカリスマ”とまで呼ばれた日本人の男、神永朔磨{かみなが さくま}の死亡が告げられた時、世界には驚愕が走り、あらゆる国の朔磨信者は、深い悲嘆に沈んだものだった。  しかし昨年、その朔磨が生きていることが、思わぬ形で判明したのだ。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加