At stormy night

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 晩夏。雨の降る夜。日本国内の、取るに足らない片隅で、バイク事故が起こった。  幸いにして怪我人は出なかったが、横転、炎上したバイクの運転手こそが、なんと神永朔磨、その人だった。  現場に散乱した荷物の中から免許証と保険証が見つかり、そこから判明したのである。  だが、このバイク事故には謎が多い。  まず、そのバイクは、どうやら日本のものではないらしい。  危うく轢かれかけた老人は、運転手の姿を見ていないと言う。  運転手は行方が分からなくなっている。  つまり、そこから導きだされる結論は。  死んだ筈の神永朔磨が失踪した。  という、実に支離滅裂なものであり、それだけに、人々の恐怖を煽る結果となっているのだ。  しかも、どうやら朔磨と関わりを持っていたらしい神部博史{かんべ ひろふみ}、アール・ビアズリーを筆頭に、各国の朔磨信者が相次いで消息を絶っている。  「警察としては、これほど不愉快なことはないらしいわよ」  画面に並んだデジタル文字を眺めながら、アシュタルテが楽しげに言った。  窓際の机に、個人の趣味の領域を遥かに越えて大掛かりな電波傍受の機械が、でんと腰を据えている。ヘッドフォンを片耳に当てて、工藤が答える。
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