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「……あれは、世を恐怖で支配しているのじゃ。彼奴も気付かぬうちに」
喜朗は唸った。
「儂は、それを止めてやりたいのじゃ。この世の中、悪心だけでは生きてゆけぬ」
「……フン」
カツ、と靴の踵を鳴らして、“それ”は窓辺へ歩み寄る。
「面白い逆説よな」
「……あれを悪魔にしたのは儂じゃ。自らの尻拭いは、自らが行なって然るべきであろう」
「悪魔か……」
“それ”は繰り返し、喉の奥でククと嗤う。
「我はあれを、悪魔とは思うておらぬ。真に悪魔となりうるは、あれの傍らにあった、あの女の方であろうよ」
床を見つめたままの喜朗が、白い眉を寄せた。
「キユのことを知っているのかっ?」
「答{いら}うを待つな。そうか、今はキユと名乗っておるのか……。やりおる。かくも我が目を欺こうとはな」
「……貴方は、何をしたいのじゃ」
「分からぬか。あの男の為さんとせし事は、我が不利益となる。黒き花は、我が手元に愛でてこそ美しい」
「……何だ今の」
拾った音声を解析し、それを流した工藤が思わず呟く傍らで、アシュタルテは首を傾げる。レースで胸元を飾ったキャミソールの上に丈の短い革の上着を着て、裾にレースをあしらった黒いスカートを着用する彼女は、反芻するように眉を寄せていた。
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