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「思いがけず、神永喜朗の声を拾えたけど。だから何なのかしらね」
世間一般にはゴスファッションと呼ばれる出で立ちのアシュタルテが身動きをする度、上着やスカートの銀色のチェーンが、じゃらじゃらと音を立てる。
色の濃い赤と黒でストライプを描くニーハイを履いた足が、室内を闊歩する。
「喜朗は喜朗で、何かに脅かされていることは確かのようね。憐れだこと」
「自業自得ですけどね。もう少し、情報が正確になるまで待ち──アシュタルテ?」
アシュタルテは顎に手をあて、青白く気迫が立ち上りかねないほど、真剣な表情をしていた。
「アシュタルテ? どうかしました?」
「……えっ?」
「返事が上の空ですね……。何か気になることでも?」
「工藤。さっきの音声解析。声紋も解析出来る?」
工藤は目を屡叩かせた。
「え、まあ……出来ますけど。どうしたんです?」
「……やっぱりいいわ、声紋解析は。喜朗が誰に脅されてるのか興味はあるけど、声紋のサンプルがないと、どうしようもないから」
えらく淡々と告げて、アシュタルテが部屋を出る。
残された工藤は、1人で首をひねった。
昨夜の嵐は止み、窓の外は真っ青な空が広がっている。
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