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「声紋解析、か……」
喜朗に語り掛ける、冷たい悪意に満ち満ちた、背筋をぞっとさせる声。
───何となく、だが。あの声は、人間の声ではないように思える。
だからと言って、あからさまに人間離れした、老若男女の判別もつかないようなものではなく。この世の尺度では測れない力を内に秘めた……そんな声だ。
「……とは言え。人間っぽさの欠落に関しては、アシュタルテと甲乙つけがたいか」
名乗る名も、素性不明なところも、アシュタルテこそ人間っぽさが激しく欠如している。
独りごちた工藤は、紅茶でも飲もうかと席を立った。
同時に、扉がノックされる。
「クドーぅ」
英語訛りの強い日本語。フィランダー・モーゼズだ。
「おはよう、モーゼズ」
戸を開けてやりながら言うと、大柄なモーゼズは、その長身をいくらか屈めていた。
「おはよ。工藤、アシュタルテいる?」
「ついさっき、出て行かれた。アシュタルテに用事か」
「ああ。ちょっとさ、これ、どう思う?」
筋張った手が、工藤に封筒を差し出す。こじゃれたラベンダー色の封筒だ。
工藤は目を瞠った。
「これは……!?」
「独自に調査してたら、やっと出所が見付かったってワケ」
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