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レザーコートの裾を颯爽と翻し、モーゼズが部屋を出ていく。
アシュタルテは工藤を振り返った。
「工藤……」
工藤は優しく微笑む。
「ええ、ついに手掛かりに到達しました」
「やっぱり、モーゼズをナンバーフォーに据えて良かったわ」
「ジャンケンでしたけどね、決め方は。さて、私はフェリーの準備をして、ついでにナンバーファイブを引っ張っておきます。アシュタルテは、お迎えの準備を」
「ええ。それじゃ、後で」
律儀に一礼して工藤が部屋を退去する。
アシュタルテは、眉を曇らせて窓の外を振り返る。
「これすら仕組まれているのだとしたら……、わたしは貴方の掌で踊っていることになるのね」
昨夜の激しい天気に洗われた空は、真っ青に晴れ上がっている。
しかしアシュタルテの心は、その空のように快晴とはいかない。
彼女は、不安をごまかすように胸元を掻き寄せる。
「神永朔磨を付け狙い、神永喜朗に恐怖の息吹きを吐き出すのは……やはり、貴方……なの?」
冷酷な悪意に染まった低い声。アシュタルテは、その声の主を、知っているような気がしてならない。
この予感が杞憂でなかったら、声の主は、彼だ。
「貴方の目的は何なの……ヘレル・ベン・サハル」
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