The omen

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 20XX年、某所。  薄暗い部屋の中央に長方形のテーブルが置かれ、その両脇に向かい合う形でソファが据えられている。黒い皮張りのそれに、対面するように男女が座っていた。  男は手元に引き寄せたガラスの灰皿に煙草の灰を落としながら、口を開いた。  「先程から申し上げております通り、今件に当方は一切の関係を持ちません」  「ありえません」  女は強気な口調で断じた。  「A社と貴方がたの間で契約が取り交わされたことは、こちらも承知しております」  男は眉根を寄せた。黒いスーツが室内の仄闇に沈んでいる。  「仰る意味が分かりません」  「では分かるようにご説明致しましょうか?」  いっそ毒々しいような朱唇が問い掛ける。自身が腰掛ける長椅子と同じ色のコルセットで細い腰を締め、鮮やかな赤いスカートを着用する彼女は、真っ直ぐに男を見据えている。  「何をでっちあげたところで、所詮は偽造に過ぎませんよ。それで捕まるのはそちらなんですがね」  低い声が嘲弄を含めて言うも、女は揺るがない。青の濃い瞳には、勝ち気な自信さえ宿っている。  「どこまでがデタラメか、それを先に口にした貴方が、本当に無関係なのですか?」
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