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「……面白い。いいでしょう。それでは提示して頂きましょうか。分かるようなご説明とやらを」
「あら、妙ですね」
女は薄く笑った。
「わたしはまだ、それが物的証拠であるとは、一言も申し上げておりませんよ。提示とは、どういう意味でしょうね」
長い髪を三つ編みにまとめている女は、レースの手袋に覆った手を、わざとらしく頬に当てた。
「それとも、弁論でないと分かるような何かが、貴方にはおありなのですか?」
男が目を眇{すが}めた。
「やってくれるな。俺を嵌{は}めようってのかい」
「心外ですね。わたしは純粋な疑問を発しただけですよ」
人形めいた完成された微笑で告げ、女は立ち上がった。
「プロタゴラスのようにはいきませんね。これ以上のお話は、省{はぶ}かせて頂きます」
「待ちな」
早々に出口に向かう女の背を、男のざらついた声が呼び止めた。
女は面を振り向ける。
「一体……、お前ェさんは何なんだ?」
女は嫣然と笑った。
「わたしの名は、アスタロト」
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