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風がうなりをあげ、天の涙が激しく海面を叩く。雷鳴が怒鳴り声を放って、夜の闇に白い爪痕を残した。
「すごい嵐ですね……」
窓からその荒れ狂う空を見つめて、工藤秀二{くどう しゅうじ}が呟く。カーテンの向こうは、どす黒いうねりとまばゆい稲光で、不吉に騒がしい。
「これは当分、止みそうにないな」
「それが嵐でしょ」
長い金髪からリボンを解いて、工藤の背後のソファに座る女が答えた。扇のように広がった毛髪は、サラサラと繊細な音をたてて彼女の背に落ち着く。
窓ガラスに映ったその様子を眺めながら、工藤は僅かに苦笑する。
「それはそうなんですけどね」
元通りにカーテンを引いて、工藤は女の対面まで移動した。
「これから、どうしましょうか」
「“彼”を感じることが出来ない今、わたし達に出来ることは限られているわ。まずは、それらを着実に解消していくのが最善ね」
「そうですね。しかし……」
工藤は眉を曇らせた。
「これ以上、貴女が動くのは危険です。──アシュタルテ」
女神の名を持つ女は、鮮やかな赤いスカートのまま足を組んだ。
「わたしが動くことにこそ、意味があるのよ。わたしはアスタロトであり、アシュタルテでもあるわ。同じ名を持つ女神に同じく、神としての名も悪魔としての名も持つ」
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