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「さて、もうとっくに部活は始まってしまっていると思うのだが、どうする青桐? 私はこのまま練習していくが、君は……?」
吹き終えた新譜を丁寧に片付けながら黒水は僕に尋ねる。
ふむ。どうしようか。
いつもはこのまま何食わぬ顔で吹奏楽部員さん達の練習をさながらOB気取りで見て回ったり、普通に下校したり様々なのだが……
「今日は大人しく帰る事にするよ。毎回毎回部員でもない奴が彷徨いてたら、みんなの気が散るだろうしな」
「そうか。それじゃあ気をつけて。…校門の所まで送ってこうか? 1人で帰れるか? なんなら君の家まで……」
「いいよ。余計なお世話だよ。全く、お母さんかお前は」
「ははは、案外似たようなものかも知れないな」
なんて、軽口を叩きながら黒水に別れを告げると、綾音の頭をぽふぽふと撫でて小部屋を後にする。
その際に綾音が、「約束忘れないで下さいね!」とか言って来たので、僕は軽く頷き、音楽室を後にした。
「さて、じゃあ部活でも始めるかな」
僕は誰にともなくそう言うと、弁当箱と週刊少年ジャンプしか入っていない鞄を肩にかけて、夕暮れに染まる坂道を歩き出す。
この際だからサラッと一回だけ言うが、
僕の部活は『帰宅部』だった。
◆
帰宅ルートを音楽を聞きながら歩く事数分、家の近所にある公園までたどり着くと僕はブランコにドカッと腰掛け、隣でブランコをぎこぎことつまらなそうに漕ぐ少女に声を掛ける。
「…今日はこんな所で何やってるんだ?」
「……僕は今世界に喧嘩を売ってるのお願いだから邪魔しないで」
少女は一息にそう言うと、凄まじい勢いでブランコを漕ぎ始めた。
『ぎこぎこ』だった鎖の音が、『ぎゅいんぎゅいん』になっているのはきっと気のせいだと思うのだが、こいつは一体何がしたいんだろう?
猫耳付きニット帽を目深に被ったその少女は、真剣な顔でただひたすらにブランコを漕ぎ続ける。
以前は確かシーソーだったか?
とにかくこの少女は公園の遊具を使って『世界に喧嘩を売る』のが好きらしい。
はっきり言って意味不明だ。
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