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「いって……」 考え込んでいたせいで反応ができなかった。 後ろを振り向くと、左の足首を掴んでいる手が見えた。 すぐそばには1人の人間が横たわっていた。 ボロボロの服を着た、30代くらいの男だった。 毛糸の帽子を深くかぶって目をつぶっていた。 サ「…な、なんだよ。」 寝てるのか? いや、寝ぼけてたとしてもこんなにうまく私の足首を掴めるわけないし、第一意味がわからない。 男の手は力をゆるめることなくギュッと足首を握っていた。 手を伸ばして男の手を外そうとしたが、力が強くてビクともしない。 「…おい、ちょっと。」 男の体を揺すって声を掛けた。 起きる気配も手を離す気配もない。 「おい、離せよ。起きてんだろ?」 さっきより大きい声で、そして強く体を揺すった。 仕方が無い、強行突破するしか…と、コートの中に手を入れたとき、男の目がパチッと開いた。
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