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途端に男のにこやかな表情は曇った。
「あれ、なんもない……?」
「…ざまーみろ、この変態。」
「なっ!おい、変態はないだろ。」
「変態だろ、手離せよ。」
男は素直に掴んでた手を離した。
「残念でした、そんなもん持ってません。」
立ち上がってコートについた埃をはたきながら、サキは男を見下して言った。
黙って冷ややかにサキの目を見ていた男はいきなりプッと吹き出した。
「はははっ。まいった。俺の推理ははずれー。」
「推理だあ?」
「そっ。俺推理とかすんの好きなんだ。あんたが向こうから歩いてきたとき、な~んか匂ったから不意をついてみた。」
「くだらない。大体お前ホームレスじゃないだろ。」
「うお、そんなことまで言っちゃう?」
男は立ち上がって着ていたジャケットの内ポケットから名刺を取り出した。
「ますます意味がわからない。」
「まあ、いろいろあんのよ。」
男はニコッと笑って名刺を渡し、いきなりサキの耳に口を近付けた。
「またどこかで会えるといいね……
殺し屋さん。」
「!」
笑顔をくずさないままそう囁いて、男は立ち去っていった。
サキは立ちすくんだまま名刺にある名前を読んだ。
「モガミ…マモル…?」
名前以外は何も書いてなかった。
男が立ち去っていった方を見るとすでに人影はなかった。
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