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ニヤリと笑った彼の口から、ほんのわずか鋭く尖った歯が見えた。
やっぱり、この人吸血鬼だ。
「そうだよ。」
彼は女の心を読み取ったかのように呟いた。
一瞬悲しみの色を写したその瞳を彼女は不思議に思った。
だけど声も出ないし、体中動かない。
女の首に顔を埋めて、唇が軽く首に触れた後、彼は静かに囁いた。
「俺は…恐ろしい吸血鬼だよ。」
………………
眩しい光がまぶたを通して入ってきた。
ゆっくりと目を開けると、ぼんやりと白い天井が見えた。
体を起こし、辺りを見回す。
ここは…どこ?
思い出そうとしても、穴が開いたように記憶が全くなかった。
ふらつく足でベッドから出て、洗面所に向かった。
鏡に写る自分の姿。
髪は乱れ、一気に年を取ったかのような顔をしていた。
そして首には、噛まれたような赤い痕。
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