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ホームレスの道を抜けると、少し賑やかな場所に出た。
すぐそこに暗くて淀んだ世界があるが、残業で遅くまで働いていたサラリーマンも同じような顔をしていた。
しかし、駅前通りに程近いこの道には、居酒屋などが多く馬鹿みたいな笑い声がかすかに聞こえてくる。
そんな賑やかさとは逆に不機嫌な顔をより一層不機嫌にして歩く黒づくめが一人。
店には目も向けずに早足で歩いている。
さっきのことを頭に悶々と描きながら、サキは右ポケットに入っている拳銃をギュッと握っていた。
なんで奴は私が殺し屋だってわかったんだ…?
この際足を掴まれたことも拳銃のこともどうでもいい。
あの確信のある言い方は何かひっかかる。
そして道はT字路に突き当たった。
サキは人の気配を伺い、誰もいないとわかると斜め前の6階建ての薄汚れたビルへと向かった。
今は誰も使っていない建物であるが、以前店舗だったのだろう、正面には閉まったシャッターが見える。
その左にある小さな入り口から彼女は建物の中へ入っていった。
5歩ほど進んだ突き当たりに古いエレベーターがあり、当然上のボタンしかないそれを押して、箱の中に入る。
ボタンは1から6の階数ボタン、開閉ボタン、非常ボタンのみ、シンプルかつ普通のエレベーターだ
しかし、これが彼女の帰るべき場所へと通ずる特別なものなのである。
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