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この町に唯一ある駅は、様々な路線は通っていない。 しかし、駅の北側にタワーマンションや高層ビルが立ち並んでいるため、利用客が多くいつも混雑していた。 それ以上に、特に金曜日の夜や休みの日になると、さらに混雑した。反対の南側に広がる何本かの大通りにたくさんの人が集まるからだった。 その内の一つ、駅のすぐ近くの通りには、真夜中の色恋にぴったりの、ムードのある暗さが漂っていた。 人はまばらだが、露出の高いワンピースを着た女や髪型をハードワックスで整えた男、高そうなスーツと金色に光る時計をし、複数の女をはべらせてる金持ち、などが店や建物の前で騒いでいた。 この通りは怪しい雰囲気に包まれていて、夜の相手を見つけることを目的にしている人以外はほとんど立ち寄らなかった。 そんな中、グレーの膝丈スカートに白いブラウス、黒いジャケットを手に持った、いかにも場違いな女がその通りを歩いていた。 ここではない通りで飲んできたようで足取りがおぼつかない。 一生懸命働いていても蹴落とされるこの時代。 彼女は周りよりうんと仕事をし、上司の機嫌を取ることで精一杯なのだろう。 まだ会社にはいられるものの、いつ自分も蹴落とされるかわからない。 そういう愚痴を言える相手がいればいいのだが、あいにく一人暮らしな上彼氏もいなかった。 一週間働いた後、現実逃避のために手を出すのはいつも酒だ。 一瞬の快楽に身を委ね、ためらいもなくグラスに注がれる酒は飲む度に量を増していく。 彼女はいつでも、会社という鍵のかかった狭い鳥籠から逃げ出したいと思っていた。 その思いが、いつもは避けて通る道へと歩みを進めてしまったのだ。
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