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その日の夕方はいつにもましてせみの声が耳についた.むしろせみが聞けといわんばかりにないているようにさえ感じた.
私は久間高校のサッカー部のマネジャーとして一仕事を終えてちょうど家までの並木道を歩いていた.
『おぃ!みゆき!』
私はふと自分の名前をよばれているのに気付いた.私はたけると帰っていることさえ忘れていた
『あ…うん ごめんごめん…きいてなかった』
こんなにもせみの声が大きくきこえたのには正直自分でも驚いた
『みゆきは俺らが引退した後はどうすんの?続けるの?』
『う~ん…今の所はやっぱあたしサッカーすきだし卒業するまでは残ろうとは思ってるよ…』
私は推薦で大学へいくつもりだったので(実際は試験勉強というものが億劫だったのかもしれないが)大学受験を経験せず最後まで部活には残れたのだ.
『たける冬まで残らないの?』
と私がきく
たけるは真剣に答えた
『……やっぱ俺も冬までのこりたい…いや残ってやらなきゃいけないんだ…でも…』
たけるはそれ以上は喋らなかった.というよりその言葉を発するのでせいいっぱいだったのかもしれないと私は感じた.
その夏はこのせみの声に匹敵するほどのたのしみに満ちていたはずだった
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