プロローグ

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 人類が宇宙開拓に着手し、火星への最初の移民船が出たのは一年前。そして、この国で起きていた戦争が終結したのは三年前。  そして、来週はその戦争が終結した終戦記念日にして、屈辱的な敗戦記念日。 「…良い月だ」  彼は部下の作戦行動が終わるまでの時間を、いつも通り葉巻に火を点け、甘く濃厚な香りを吸って過ごす。  空に浮かんだ月は開拓計画は出ていてもまだまだ人類の手が入っていない自然のままの姿を、満月という形で全てを曝け出して微笑みを彼に見せる。  雲ひとつ無い美しい月夜にかかる、彼が吐き出した紫煙の雲。 (これから一週間は晴れるというニュースもテレビでやっていた。まるで天も我々の作戦を祝福してくれているかのようだ)  煙を深く肺に溜め込み、大きく吐き出す。  時刻は午前二時。子供はとうに寝ている時間。そして、悪党が目覚める時間。  近いうちに起きる周辺の混乱を想像して彼がほくそえんでいると、ふと視界に入ったソレに彼は眉根を寄せた。 「…誰だ?」
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