プロローグ

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 こんな深夜の路地裏、危険で大人の男ですらそうは寄り付かないというのに、視界に入った二つの人影に彼は首を傾げながらも、反射的に葉巻の火を消して携帯灰皿につっこんでからコートの内側に隠していた愛銃に手をかけ、近くのダストボックスの陰に身を隠す。 「…こちらアルファ地点。イレギュラー発生。各員作戦行動終了後はベータ地点に集合のこと。以上」  無線で作戦行動中の部下達に用件だけ手短に告げ、彼は無線を切って物陰から人影の様子を伺う。  これがもし警察組織の巡回だとしたら、先ほどまで余裕のつもりで葉巻をふかしていたことを後悔せざるを得ないと、彼は内心焦っていた。  連中は鼻が利く。人影が警察組織の連中ならば恐らくこの匂いにもすぐ気付くだろう。無論、匂いの元凶にも。  自分のミスで計画を頓挫させるわけにはいかない。いざとなったら自決する他無い。  そう覚悟を決めたものの、その人影の姿が月明かりに照らされて見えるようになると彼は苦笑して銃を持ち直す。  人影の正体は太った男と、その男に手を引かれてふらふらと歩いている銀髪の女だった。  服装や体格、雰囲気など、どこからどう見ても警察の人間ではない。逢引きだろうか。  彼は小さく溜め息を吐いて覗くのをやめ、彼等が行為に没頭するか場所を離れるまで待つことにした。  が、そう思った矢先、女の小さな悲鳴が響いた後に錆混じりのダストボックスが酷く鈍い反響音を響かせて彼の緩みかけた気を一気に引き締めさせる。  音の原因は、今の悲鳴からして女が押し倒されたのだろう。では逢引きではなく、強姦か。或いは強盗殺人の類か?  それを確認する必要は無かった。
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