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季節は夏の終わり頃。
休日の公園に片手にゴミ袋を、もう片手には空き缶などを拾うためのカニ挟みを持って立っている少年がいる。
彼の名前は日太 陽(ひのだ よう)
年齢は中学三年生。
好きな言葉は一日一善。
もっと好きな言葉は一日百善。
クラスの皆は彼のことを『いい子ちゃん』と呼ぶ。
本人いわく「別にそう見られたいわけじゃなくてただ自分のしたいようにしてるだけ」なんだそうだが。
日課は公園のゴミ掃除。
今日はここ、日野山公園。
町内ではなかなか大きなこの公園、ゴミの量もなかなか多かったがなんとか集め終わった陽はゴミ袋の口を縛り、それをゴミ捨て場に置く。
――いつも通りの日常だった
ふと陽が公園の広場を見ると、そこでは小さい子供達がサッカーをして遊んでいた。
あまりにも日常的な、まるでドラマのような日曜の昼下がり。
そんな光景を見ていて、陽の頭にふとこんなことが浮かんだ。
「こういうときよくドラマではボールが道路に転がっていって…」
陽がポツリと言った独り言。
すると偶然にも、その通りに広場で遊んでいた子供が蹴ったボールが道路に転がっていった。
そんな偶然に驚きながらも、陽は独り言を続けた。
「危ないのに子供が取りに…」
するとやはり偶然にも遊んでいた子供達の内の一人が道路に転がっていったボールを取りに行く。
余りの偶然に少し奇妙な感覚を陽は抱く。
そして陽は最後の独り言を呟く。
「そこにトラックが…」
陽が呟いた瞬間、すぐそこの角を曲がって大型のトラックがやってきた。
トラックの目の前には、ボールを取りに道路に出ていた子供が立ち尽くしている。
(……そこで、ひかれそうな子供を近くの少年が無事助けるんだよな)
気持ちの悪い位に的中した陽の想像。
しかし、いくら幸運な結末を彼が想像しようと、今までの結果は全て偶然に過ぎない。
現実はそんなドラマのように都合よくはいかない。
陽もそんな事はわかっていた。
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