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時間は夜。
場所は昼頃に陽がいた駅前のスクランブル交差点。
道路に車は一台も走ってはおらず、それどころか猫の子一匹として存在していない。
不気味なほどに静まり返った空間がそこには形成されていた。
いくら終電が出たと言っても、駅前に人が一人もいないなんてことは異常である。
だが、その異常は今起こっている。
何もかもが固まり、動かなくなった氷のような空間。
その空間には輝いているかのような黄色が揺れている。
交差点の中心。
カジュアルな服を着た、見た目20代半ばの、まるでライオンのような髪型の金というよりも黄に近い髪色の男がそこ立っていた。
もしもこの場に人がいたならば、その人物は息を呑んだに違いない。
月明かりに照らされた金髪、その髪と髪の間から月へと向かってそびえ立っているかのように、男の頭には黄色い角が生えていた。
「…………」
その鬼しかいない交差点。
静寂が空間を埋め尽くす。
だが、この静寂もすぐに砕かれることになった。
「こんばんは、黄鬼さん」
月の光りの向こう側、ビルによってできた影から、普段着に着替えた生き神が現れたからだ。
この突然の訪問者に、黄色い角を生やした鬼はさほど驚くことなく喋りかける。
「よぅ、久しぶりだな月山」
鬼はまるで学校の先輩のように月山に接する。
「なんか疲れてません?どうしたんですか……なんて質問は無駄ですね。陽の事でしょう?」
「まぁな。ハァ、まったくあいつは何でこんなに早く死んだのに鬼になってんだよ。しかもあの善行の量、なんで14・5年生きただけなのにこんなにあるんだ……ハァ」
2回もため息をついている黄鬼。
「ハハハ、大変ですね……それより、そろそろ」
「あぁ、そうだな……ハァ」
黄鬼が又ため息をつく。
人はいないが黄鬼と生き神がいる交差点。
二人の周りには、夜の暗闇よりも暗いものがうごめいていた。
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