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陽の頭にトラックの急ブレーキの音が響き渡る。
その次に聞いたのはトラックが何かにぶつかった音。
最後に聞いたのは、『何か』が潰れた様な音。
(……ほら、ダメだった)
鮮血が道路を赤く染め上げる。
道路の端。
公園とは道路を挟んで逆の場所で、まるで誰かに突き飛ばされたかの様な格好でボールを取ろうとした子供は尻餅をついていた。
子供は助かっていたのだ。
しかし、陽の想像したものとは全く違う結末で。
――本当に現実って厳しい。だって……
助けた僕が全然無事じゃない
現実は漫画やドラマの様に都合よくはいかない。
陽もそんな事は分かっていた。
分かっていたからこそ、彼は走ったのだ。
何もしないでいては、絶対に現実は好転しないと分かっていたから。
だが、彼のその勇気ある行動は皮肉にも彼自身の現実を歪めてしまった。
(……死ぬのか?僕は)
『死』
生きとし生きるもの全てに必ず、いつかは襲い来る現象。
本来ならば恐怖し、泣き叫ぶような状況なのだろう。
だが、体の痛みに苦しむ陽の頭に浮かんだのは死への恐怖ではなく、ただの純粋な疑問。
(人って……死んだらどうなるんだろう?)
この疑問が、陽が生きているうちに考えた最後の事だった。
そして目が覚めた時、彼は……
鬼になっていた。
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