~真夜中の病室~

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水野が慌てて出ていってから数分後。 陽はベットで眠っていた。 なんて悠長な、とお思いになるだろうが、これは水野のせいだ。 水野は病室を出る前に、陽にある物を残していた。 それは眠らせた陽の頭の上に置かれた紅蓮の炎を点す火の玉だ。 「………ん?なんだここは」 気がつくと陽は不思議な空間に立っていた。 そこには床も天井も無く、上下左右の区別も無い。 光りも無く、そこは限りなく無に近い空間だった。 陽と、陽の目の前にいる誰かを除いて。 「誰だ?」 陽は光の無いこの空間で、なぜか相手を見ることができた。 陽の目の前にいる男。 その外見は陽とそっくりだった。 背格好、髪型、服装、まるで鏡のように全てが一致していた。 男が口を開く。 「…俺か?俺はお前だよ」 「……は?」 声色までまったく同じ。 陽は目の前にいる男を警戒する。 「おっと、勘違いするなよ。別に俺はお前の二重人格でもなければ、幻覚でもない。俺は俺、お前はお前だ」 陽は相手の顔を見たいと思った。 だが、影がかかっていて男の顔をハッキリと見ることができない。男は話続けた。 「でもな、俺はお前なんだよ。………元だけどな」 「もと?」 陽にはその言葉の意味がわからなかった。 そう言った後、男は顔を上げた。 影のかかっていた顔がハッキリと見えるようになる。 目の前の男の顔は、陽と全く同じ顔をしていた。 ただ一つ、焔のように紅い眼を除いて。
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