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「あぁそうか、ごめんね死んだばっかりの所をいきなり引っ張って来ちゃって。そうだよね死んだばっかりでいきなりあなたは悪行より善行が多かったので、たった今から鬼となって自分の人生のバランスをとってください。なんて事を聞かされても理解できるわけないよね。鬼の姿は生前の最も覚えている姿になって、それでまた生まれ変わるためには善行を行った分だけ悪行をすることでまた新たな命の始まりとならなければならないなんてことは頭に入ってきませんよね」
怒涛の勢いで男の口から出てきたのは物凄い量の言葉。
まるでビデオの早送りの様なそれを聞いた陽は、
「……うぷ」
片手で口をおさえて俯いている。
どうやら言葉に酔ってしまったようだ。
「ふぅ、それで……他に何か聞きたい事はある?」
そう言われても陽が思い付く質問の答えは既に陽の頭の中に用意されているのだ。
よって陽の口から出る言葉は質問ではなく愚痴。
答えが分かっていても受け入れられない事実。
「なんで…なんで僕は鬼なんかに?」
男は一拍も置かずに陽の愚痴に答えた。
「それがこの世の掟だからだよ」
そんなことは陽は知っている。
知ってはいるが、分からないのだ。
「……最初は誰でも戸惑います。慣れが肝心だから、がんばれ」
そう言ってスーツ姿の鬼は去っていった、まるで消えさるかのように。
「……そういえば、名前聞くの忘れた」
男がいなくなってから数秒後、陽が呟いた。
するとベンチの上の火の玉の色が、ゴウッという音をたてて青白から緑に変わり、その緑色の炎から声がした。
「私の名前は水野 渉(みずのわたる)です。改めて、これからよろしく陽君」
「はぁ……ところで、これから僕はどうすれば?」
「まだ鬼になったばかりで混乱してるでしょうから適当にぶらついてみて下さい。しばらくして落ち着いたら、こちらから連絡を入れます。それでは……」
火の玉の色が青白に戻った。
「ぶらつけ……か」
陽は空を見上げる。
綺麗な水色の空に浮んでいた太陽は、雲に邪魔され見えなくなっていた。
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