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「……先生、覚えてます?」
塚本の表情が変わる。
こりゃ、やっぱり親父狩りコースなのかもしれん。
「ん? 何だろうねぇ」
「惚けないでよ、先生」
得意の笑顔ではぐらかしてみても、野郎にそれが通用するはずもなく、余計に塚本のボルテージを上げてしまった。
「四年も前の事、覚えてないっつーの」
口から煙を吐き出すと、塚本は顔を背けた。煙草は吸わないらしい。
「しらばっくれるなら別にそれでいいっすよ。俺、ずっといっちゃんに相談してたよね? 椎名の事。……なのに、なんで手ぇ出すかな?」
……ガキが。面倒くせぇ。
「何? 俺にどうしろと? そんなん今更だろ? アイツが生徒ん時は手ぇつけてないし。お前が振られた後の話だろーが」
「ちゃーんと覚えてんじゃないっすか。別に、謝って欲しいとか、そーゆうんじゃないっすよ」
「じゃあ何だよ?」
「あの頃は……勝てる気しなかったんすよね。いっちゃんに。ただ……」
「ただ?」
「今なら負ける気しないんすよね」
「どーゆう意味?」
「まさか実習で再会できるとは思ってなかったっすよ。今度こそ、俺、頑張りますね!」
満足気な塚本。
これが世に言う、ゆとり教育の実態だろうか。
「先生も今度こそ応援して下さいよ?」
「するかっ! 阿呆!」
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