序章【開花】

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 菊と桜の生家である如月家は長く続く名家であった。  裕福で恵まれた家庭、優しい父と母たちに育てられ兄妹は育った。  しかし、彼らが七つのときに両親は交通事故でこの世を去った。  その夜、泣きじゃくる桜を笑顔で励まし、菊は妹の手を握ってこう言った。 『二人で生きて行こう』  心強い言葉だった。桜は返事の変わりに兄の手を強く握り返した。  菊もきっと大声で泣きたかったに違いない。その証拠に微かに眼を赤くしていた。  菊の言葉には沢山の意味が込められていた。  如月家はとにかく大金持ちだった。幼い双子には莫大な遺産が残された。  その遺産目当てに、金に目を眩ませた意地汚い大人たちが群がる。彼らには命さえも危うい状態になっていた。  恐がる妹を兄は健気に守った。  そんな中彼らを助けたのは、父方の弟夫婦だった。  生前の父と母の遺書を預かっていたという。  筆跡鑑定の結果、それは確かに両親のものであると認められた。  その遺書には『遺産は子供たちにのみ分配させる事』と『後見人は父方の弟夫婦に任命する』と書かれていた。  誰もが歯を食いしばり、その遺書に従った。  そして両親を喪ってからは、弟夫婦の子供として育てられた。  父とその弟、叔父である如月蓮は昔から兄である父と仲が良く、たびたび如月の本家に遊びに来ていた。幼い頃から菊と桜もとても可愛がってもらっていた。  父よりもやんちゃで、優しく逞しい蓮を双子は好いていたし、その叔父が父親として自分達と一緒に生活してくれる事がとても嬉しかった。  叔父夫婦も子供に恵まれなかった為、菊と桜が自分達の子供になってくれる事を喜んでいた。
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