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シュウは花びらに埋もれ、猫みたいに丸まった格好で熟睡していた。
まさか自分が置き去りにされたなんて思ってもいないだろう。
私は辺りに散乱したビールの空き缶や、吸い殻を拾い集めてビニール袋にまとめ、その場を完全にもとの状態に復元すると、ゴミ袋の中から空き缶をひとつ取り出して、シュウの傍らに座りマルメンに火を点けた。
さっきまで真っ白だったはずのパーカーの、ところどころに若草色の染みがついている。
心地良さそうに眠る彼を起こせずに、私はその寝顔から目が離せなくなる。
陶器のような滑らかな肌、下瞼に影をつくるぐらい長い睫毛、細く尖った鼻梁、ふっくらとした唇‥、幼い頃に読んだ絵本に出て来る天使みたい。
そんな妄想をエスカレートさせてしまうぐらい、さっきより間近に見る彼は、やっぱりきれいだ。
愛想なんて微塵もなくて、最初の印象は最悪だったけど、シュウはただ人見知りで、不器用なだけなんじゃないだろうか。
無垢な寝顔を見てそう思う。
無口過ぎる人は苦手だけれど、この人のこと嫌いじゃない。
可能ならもっと彼と関わりたい。
ゆっくり少しずつ慣れていきたいと思う。
それが私の偽りない気持ちだった。
だけどなぜ、ここまでシュウにこだわってしまうのか、その理由は分からない。
彼が目覚めたら、送り届ける家までの帰路に何を話そう。
どうしたら会話が成り立つだろう。
気持ちだけが先走ってしまう。
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