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翌朝、けたたましいアラームに安眠を妨げられた私は、半ば眠りの中ですこぶる不機嫌になる。
手探りでスイッチをオフに切り替えるが、鳴り止まない騒音に、それが携帯の着信音だと気付いて飛び起きた。
「もしもし?」
「おはよう。ごめん、寝てた?」
受話器の向うに聞こえるのはシュウの柔らかな声。
「ううん、起きてたよ。どうした?」
‥嘘ばっかり。
寝ていたか?と尋ねられると、思わず否定してしまうのはなぜだろう。
私は携帯の着信音に必ず目が覚めてしまう。
ただ液晶に表示される相手の名前を確認して、眠っていることにしてしまう場合も多々。そういう時は着信ボタンは押さずに放置する。
「ユウキの親から電話があって、すぐに帰るように伝えてくれって」
「すぐリエの携帯にかけてみる。折り返すね」
短く用件だけ話すと電話を切り、すぐに璃慧の番号を呼び出して鳴らす。
しかし、着信音はなるものの応答はなく、しばらくすると留守電に切り替わってしまう。
何度も繰り返し呼び出してみたが、彼女の場合は熟睡していると着信音にも気付かないし、もしサイレントにしているなら尚更だ。
面倒だけど直接訪ねていくしか、他に手段がない。
私は床に散らかった洋服の中からTシャツとジーンズを拾って着替え、鏡の前で髪の毛をひとつに束ねると、財布と煙草、それから携帯に車の鍵だけ持って家を出る。
平日の米里通りは大型車両で混雑していたが、かなり蛇行の追い越し運転で飛ばしたので、璃慧の家に着くまでは20分もかからなかった。
アパートの前にあるゴミステーションの窪みに車を停めた私は、スチール製の外階段を駆け上がり、玄関のチャイムをひたすら押し続けた。
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