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部屋の奥で微かな物音が聞えて、しばらくするとガチャンと玄関の鍵が外される。
「誰?つーか有り得ねぇ‥鳴らし過ぎだから」
ドアチェーンの幅だけ開いた扉の隙間から、不機嫌さも頂点を極めた璃慧の声を聞く。
「有り得ないのはそっちだから‥」
「ハルカ?やだ!どうしたの?」
璃慧は驚き慌ててチェーンを外すと、ドアを開け私を玄関に招き入れた。
「やだ!じゃないよ。電話ぐらい出てよね」
私が睨みつけると、璃慧は乱れた髪を掻きあげながら、ばつが悪そうに笑顔で誤魔化した。
素肌に大きめのTシャツを纏った璃慧の太股は、妙になまめかしい色気を漂わせている。
が、ノーメイクの素肌は荒れ放題で、目の下にクマまで作って最悪なコンディションだ。普段なら化粧なんてしなくても十分キレイなのに‥。寝る暇も惜しんで佑貴とのエッチに明け暮れていたのだろう。もしかしたら今だって、その最中だったかもしれない。
ブラインドを締め切ったリビングは薄暗く、換気を怠った部屋は空気が澱んでいた。
何か果物が腐ったようなすっぱい匂いが鼻につく。
木目の小さなテーブルに置かれた灰皿は吸い殻の山で、倒れたままのグラスが放置され、ピスタチオの殻やスナック菓子がふやけていた。
「何‥これ。びしょ濡れじゃないの」
「ワインこぼしちゃったんだ。後で片付けるから置いておいて」
気分が悪くなった私は、ブラインドを上げ、窓を全開にして空気を入れ替える。
「ユウキは?」
「ああ、さっき眠ったばかりだけど‥」
「すぐに起こして」
佑貴の親からシュウに電話があったらしいことを伝えると、璃慧は急いで隣りの寝室へ入って行った。
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