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佑貴を起こす璃慧の様子が伺えた後、寝室から彼らが出て来る気配はいっこうにない。それどころか、戯れ合うような微かな声とベッドの軋む音が聞えてくる。
布団を被り、声を殺して、こちらに勘づかれないようにしているつもりだろうが、セックスしていることぐらいバレバレだ。
呆れた。私は苛立ちポケットから出したマルメンに火を点ける。
ようやく二人が隣りの部屋から現われたのは、それから二本目を吸い終わる頃だ。
「申し訳ないんだけどユウキを送ってもらえない?」
「別にいいけど。どこ?」
璃慧は私が冷ややかな視線を浴びせているのに気付いているのか、いないのか。
「中央区。私は仕事に行く支度をしなくちゃいけないから行けないけど、頼んでいい?」
璃慧が一緒に行くというのならともかく、なぜ私がひとりで佑貴を、しかも自宅とは逆方向に送らなければならないのか。
かなり不満だったけど、先に承諾してしまったので、今更もう断るなんてできない。
私は取り敢えずシュウに電話を入れる。呼び出してすぐに出たところを見ると、彼もかなり気を揉んでいたのではないか。
無関係な私たちばかりが慌てていて、当の本人は気楽なものだ。
「ユウキに代わってもらえる?」
シュウに言われて、私は佑貴に携帯を渡す。
会話の内容から察するに、本来は休みだった佑貴の自宅に会社から電話が入り、急遽出勤して欲しいと要請があった‥と、そんな感じだった。
佑貴が電話を切った後、彼が身仕度を済ませるのを待ち、私たちは璃慧の家を後にする。
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